福岡県書店組合情報
2014年1月14日(火)

「神田神保町に想う」

東京に住んでいた頃、神田の古本屋街を散策するのが好きであった。大型新刊書店よりもこじんまりとした佇まいの古本屋が自分には馴染んでいた。田舎者の私にとって、どうも大きな書店や図書館は活字の圧力に押しつぶされ、息苦しささえ感じていたのであろう。自分の力量に応じた本の冊数というのか、書店の面積というのか、本の種類にもよるのだが、適度の容量が快く、気が満ちる。古本のカビ臭い、独特の紙の匂いの中、ゆっくりと立ち位置を決め、気ままにページをめくると視界には開いたページだけでなく、本棚と本棚の間に存在する小宇宙とも言うべき空間が拡がる。常連と思しき老人、おのぼりさんと推測できる大きなリュックを背負った中年の男性、他の場所ではあまり感じられない「本が好き」という同類の匂いを強く感じることができるのである。また神保町には「さぼーる」をはじめとして、昭和から続くコーヒーとカレーの美味しい古い喫茶店も多く存在する。そこで疲れた足を休め、香りの強いコーヒーで癒すことも極上の楽しみの一つなのである。業界のディープな話もどこぞやのラジオ番組ではないが聞き耳を立てていると自然に入ってくる。コーヒーを飲んでいる私のすぐ後ろで興味深い話が始まると、すぐにでも振り返ってその声の発信源の顔を見たいのであるが、気が引けてそれはなかなか叶わない。帰り際にチラッと見てその想像とのギャップも楽しめる。思い通りの容姿だとつい笑顔になってしまう。私の人間観察力も捨てたものではないともちろん、主役の古書・書史にも胸がときめくいろんな発見がある。自分が生まれるずっと以前、昭和初期発行の本に今でもドキッとするような風俗画や、その時代のデザインを反映したポスター等を見つけるとその斬新さに驚かされることもある。また、昔の表紙の挿絵の洗練されたデザインに感心することもしばしばである。神保町は私にとって子どもたちにとってのディズニーランドにも勝るワンダーランドなのである。三十歳を過ぎてからは年に1・2度であるが仕事でその街を訪れることになる。以前に比べ年々スポーツやアウトドア用品を扱う店が増えている気がするが、それでも日本、いや世界一の本の街である。日本人の書肆・書物に対する思いは日々薄らいでいるようだが、この街はいつまでもこの姿を変えて欲しくない、と本離れが進む昨今、痛切に望むのは私だけであろうか。
2012年1月7日(土)
人生のページを閉じるとき

本の最終ページを読み終え表紙を閉じるとき、その満足感は、
親しき友と久し振りに、時間を忘れ語り合った充実感に似て、
やがて安堵と平穏で満たされた気持ちとシンクロし快い余韻
の糸を紡ぐ。
しかし、時にそれは裏切りに変貌することがある。
書店で本を求め、読み進めるにつれ、素敵な表紙と
題字がやがて幻滅の一途をたどる。拙い文章、何の魅力も
感じられない表現、挙句の果ては何度読み返してもその情景
が汲み取れない幼稚な構成、そして最終ページへ。作者は私に
何を訴え、何を感じてほしかったのだろうか?私は書物を売る
ことを業(なりわい)としているが、文章を書くことは読む
こととちがって一筋縄ではいかないことは理解している。
それにたいした文章力も持ち合わせていないことを一筆付け
加えて自分の稚拙な文章能力は棚に上げさせていただく、
悪しからず。また書物はよく友に例えられる。
一生の友(座右の銘)に成り得る素晴らしい書誌もあれば
その刹那、その場だけの付き合いだけで終わってしまう書もある。
冊数は少なくても自分の書棚に“座右の銘”が並んでいることは、
人生の岐路に立った時、心強い羅針盤となり得るだろう。ちなみ
に現代のように、経済的にも精神的にも不安定な時代、論語がよ
く読まれる。私の小さなお店にもいろんな「論語」が並んでいる。
論語にかかわらず書物は、読む年齢、心境によっても深く共感す
る場合もあれば上っ面だけを読み、理解したつもりになることだ
ってある。それゆえ、音楽と同じように自分の青春時代のテーマ
ソングのように熱い気持ちでいっきにその時代にタイムスリップ
してみたり、人生の麻疹にかかった当時読んだ本を読み返すと何
だか苦い、思い返し難い気持ちになり気が沈む物語もある。
学生時代、友人の本棚を見るのが好きであった。当時、地方出身
者は東京の小さなアパートにも、お気に入りの本をみかん箱1箱
ぐらいは持って上京したように思う。当時、時間を弄ぶほど所有
していた文系の私などは、日に日に棚は本で埋まっていった。
大半は文庫本であったが、三島とか太宰、坂口安吾など自分と
同じ系統の背表紙をみると一気に親近感が増した。
ましてやその棚に読んだことのあるタイトルを発見でもする
ものなら、そっとその本を抜き、ページをめくりながら、
ありったけのその作家の知識、蘊蓄をのたまうのである。
また、時に意外な本を見つけると、その友が自分の思い描い
ていたキャラとはちがった一面を再発見し認識を変えたこと
もあったように思う。ある時、東北の訛がほとんど抜けて
ない色白の友人が、少し酒がまわった調子にヘミングウェイを
語った時は、キューバとスペインのイメージしか持ち合わせて
いない私にとってはカルチャーショックで翌日、本屋でヘミン
グウェイを買い込んで真剣に読んだこともあった。次の居酒屋
討論会の準備のために。それがやがてヘミングウェイが好きに
なり本屋になるきっかけにもなるわけだが。私の本にまつわる
徒然なるエピソードを書きなぐったが、近い将来、もし店を
閉じるなり、人生を終えるなり、最終ページを閉じる時、
充実感で満たされた人生の表紙の閉じ方をしたいものだ。
そのためには、自分にウソをつかず、全身全霊をささげ
言霊(ことだま)が満ちあふれた書籍を悔いの残さぬよう
販売していきたいものだ。好きで27歳で始めた業(なりわい)
ではあるが、時勢に流されない、次の章につながるよう最終
ページをかみしめながら読みたいものだ。生まれ育った場所で。

2009年3月15日(日)
福岡県書店便り 第3号

永いこと店を守っていると、いろんな事が時折起こる。
ゆつくりと、まったりと流れる時間もあれば、唯々忙しくて
無意識にあわただしく流れる時間もある。
いずれも同じ一日12時間営業なのに不思議である。
「あっ!これってマーフィ−の法則!?」と苦笑いすることもしばしば・・・。
「もしもし、BOOKBOXです。アカデミ−賞受賞でいま話題の
『納棺夫日記』在庫ありますか?」
取次に問い合わせのTELの途中「ド−ン!!」
これって地震? 足が受話器を持ったまま少し宙に浮いた気がした。
注文を受けていた女性が慌てて「大丈夫ですかっ?!」
2・3秒の空白の後で「また電話します!」ガチャン!
混乱した頭でとりあえず受話器を置く。
なんとたった10ヶ月の間に3度も車が店に激突しているのである。
今回始めて店内まで車の頭が進入!
3回とも、もみじマ−クのドライバ−、それも常連のお客様である。
いずれもブレ−キとアクセルの踏み違いとのこと。
「まあよくある事」ではすまない事態。
本人との話し合いから始まり、警察官、保険の担当者、
慣れない事は精神的に疲れる。
車の運転者も含め一人も怪我人が無いことが不幸中の幸い。
店の壁や壊れたサッシは取り替えれば事は済む。
しかし人の命は取り返しがつかない。
その後の話の中で異口同音に、
「車の運転はもう潮時かな。免許証をお上に返上しよう。」
しかしなかなか決断が出来ないらしい。
人生の悲哀を感じ「老人」というライセンスを突きつけられる思いが
そうはさせないらしい。
私も店を閉じる時、そういった思いでなかなか決断できないのでは・・・。
潮時を感じることがずっと遠い先であって欲しいものだ。

2006年4月23日(日)
福岡書店組合たより 第2号

確かに去年十二月組合たより第1号をだしました。
それから四ヶ月のブランク。何も書くことがなかた
訳ではありませんでした。
只なる発行者の怠慢でした。特別仕事が忙しい
かった訳でも有りませんでした。無理して言えば
三月.四月は教科書納入やら販売がありました。
いくら暇な本屋でもこの頃は猫の手でも借りたい
くらいです。
だからといって儲けるかというとそうでもない。
本屋というのは誠に儲けの少ないカタイ商売です。
だから万引されると店が潰れる商売なのです。
万引されたら店が潰れるくらいですから、本屋さんも
万引されないガ−ドを張ることにしました。
今から説明ガ−ドの内容は全国で初めての
新しいシステムです。
今夏から店頭でお買上げいただいた本に「証明書シ−ル」
を張る制度をスタ−トさせます。
万引された本が古書店へ持っていき換金されることが多く
これからはシ−ルのない本は古書店では買いとることを拒否
することができる様になります。
福岡県の万引被害は年間約十二億円と推定されています。
これは一店当たり二百十二万円の本が盗まれた計算になります。
万引の多くは少年犯罪とみられ、一部の書店では
本にICタグを付けるなどの万引防止策を講じていますが、
無断で本を店外に持ち出した場合に警報が鳴る装置は
一台当たり70万円程度と高額のため、導入は大書店のみです。
この証明シ−ルは、いったん張られたシ−ルをはがした後に、
別の本には張れない様な工夫もされているスグレものです。
ちなみに2005年の福岡県内の刑法犯の少年検挙補導人数は
全国ワ−スト四位の8979人です。
このうち万引は2234人で全体の四分一を占めています。
遊び感覚で万引が目立ます。繰り返すうちに
本格的な非行に
発展する可能性があると
考えています。
このシ−ルで万引の抑止効果に期待を寄せている
ところです。
            ちっごじん

2005年12月19日(月)
福岡書店組合情報 No1

目下全国の書店の頭痛のタネは万引です。福岡県ワ−スト1です。
2.が高知県3.は香川県、4.が東京です。
只今全県をあげていかにしたらこの万引に歯止めできるかのかと
県警と共に試案中です。


年が明けると新学期が始まります。福岡県の小中高大の教科書の
取り扱いは四国四県よりも大きい
まさに教育立県です。

全国の本屋さんの組織は「日本書店商業組合連合会」といいます。
略して我々は「日書連」といっています。月に3回機関誌を発行しています。
出版、取次、運輸などの本に関係あるあらゆる情報を記載した新聞です。
発行責任者は、広報委員長です。その委員長は、本県の組合理事長です。